2023年の夏に広島を訪れる機会があり、広島平和記念資料館を設計した丹下健三(Kenzo Tange)と関係の深い建築家が時代を超えて繋がる建築物があると聞き、谷口吉生(Yoshio Taniguchi)の設計したゴミ焼却場を訪問しました。
広島市環境局中工場とは
この建物は同地にあったゴミ処理場が“ひろしま2045:平和と創造のまち”というプロジェクトの一環で整備されたものです。
このプロジェクトは被爆50周年を記念し、1995年に開始したものでデザイン力に優れた設計者を選定、起用することで個性的で魅力ある都市景観の想像をしようとする試みとのことです。
このプロジェクトの趣旨通り、通常ゴミ処理場は汚くて薄汚れた印象や嫌にポップなイラストが描かれていたり奇抜なデザインだったり(大阪市のゴミ処理場などが好例だと思いますが)しますがこのゴミ処理場においては外観は直線的でシンプルな構造、何かの製造工場を思わせるような作りでエコリアム(「エコロジー」と「アトリウム(広場)」を結びつけてできた造語)と呼ばれるゴミ処理場を南北に貫く空間は3面がガラス張りの構造でゴミ処理場の内部のプラントが見えるような作りになっており、その光景も現代美術の展示品のように美しく見えるような作りとなっています。
建築家について
こちらの作品の建築家は谷口吉生(Yoshio Taniguchi)(1937.10.17-)父親は同じく建築家の谷口吉郎(Yoshiro Taniguchi)(1904.6.24-1979.2.2)です。
ハーバード大学建築学科大学院修了後、東京大学都市工学科の丹下健三研究室及び丹下健三都市・建築研究所に所属、その後独立して数々の作品を発表。
代表的な作品としては山形県酒田市の土門拳記念館(1983)、香川県丸亀市の猪熊弦一郎現代美術館(1991)、東京都台東区の東京国立博物館 法隆寺宝物館(1999)、香川県坂出市の香川県立東山魁夷せとうち美術館(2004)、ニューヨークのニューヨーク近代美術館 新館(2004)、石川県金沢市の鈴木大拙館(2011)、京都市東山区の京都国立博物館 平成知新館(2014)、東京都中央区のGINZA SIX(2017)、石川県金沢市の谷口吉郎・吉生記念金沢建築館(2019)などがある。
特徴としては直線的でシンプルなデザインが多く水盤等を使用し建築物だけではなく空間との調和を考えられている建築家だと思います。
丹下健三設計の広島平和記念資料館との関係
平和記念公園には南北に原爆ドーム、平和の灯火、原爆死没者慰霊碑、平和記念資料館本館が一直線に配置されています、これを平和の軸線と呼ばれています。
この南北の軸線と東西に貫く平和大通りが横軸として存在しています。
丹下健三はシンボルとして原爆ドームを起点とし、そこから祈りの場を配置することによって平和公園一帯を祈りと平和を作り出していく場所にしたいという強い決意を感じるデザインとなっています。
この平和の軸線を丹下健三の元で建築を学んだ谷口吉生は50年近くの時を超えて瀬戸内海まで大きく伸ばす建築を設計しました。
この設計は丹下健三と谷口吉生との関係、原爆の被爆地となった広島の昔と今という色々なものが重なり合った上で存在するものだと思います。
また、このコンペで谷口吉生の計画に決まったというのも色々な繋がりというものを感じます。
アクセス
住所:〒730-0826 広島県広島市中区南吉島1丁目5−1
広島駅から行く場合は広島バスの24系統 吉島営業所行きがもっとも便利だと思います。
料金は220円(2023年10月29日現在)バスの乗車時間は30分程度、広島駅から丹下健三設計の広島平和記念資料館を通り平和の軸線と呼ばれる吉島通りを通るルートとなりバスの車窓から広島の風景を見るのも非常に楽しいひと時となります。
私が訪問した際、帰りのバスでは広島球場で広島カープの試合があったため、停留所ごとに次々とカープファンが乗ってきた事が印象的でした。
車で行く際は近くに無料の駐車場がありますのでそちらを利用する形になります。
見学について
工場周辺の緑地帯からの外観見学やエコリアムの見学はAM9:00からPM4:30まで特段申込み不要で見学可能です。
見学可能日:年末年始(12/29から1/3)以外は毎日可能
※エコリアムについては悪天候の場合封鎖されることがあるようです。
最後に
元々、丹下健三の建築物が好きで色々なところに観にいく機会がありましたがその時には広島市環境局中工場の存在は知りませんでした。ところがテレビや雑誌で見る機会があり一度訪問してみたいとは思っていましたがなかなか訪問する機会がなく2023年に初めて訪問することが出来ました。
広島は原爆投下という悲劇を経験した街ですがそこに丹下健三の平和記念公園という都市計画と時代を超えて繋がりを持って建てられた谷口吉生の広島市環境局中工場は平和を願う広島の思いを大きく表していると感じました。
観光地でもなく、ゴミ処理施設というどちらかというと負のイメージのある施設ですが建築が好きな人、広島の時代を超えた平和への想いを感じたいという方は一度見に行かれてはいかがでしょうか。
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